年輪年代法の応用必要

奈文研 古代建築テーマにシンポ

 奈良文化財研究所五十周年記念公開シンポジウム「古代建築研究の新たな展開」が(平成14年11月)九日、奈良市春日野町の県新公会堂で約二百二十人が参加して開かれた。
 清水慎一・同研究所文化遺産研究部建造物研究室長ら七人の専門家が、古代建築研究の課題や近年の研究動向を示す成果を発表し、総合的な討議が行われた。
 清水さんは「古代建築研究の展開」と題して同研究所の建造物研究の歩みと、古代建築研究の今後の課題を述べた。
 清水さんは上部構造の情報を多く提供してくれる出土建築部材の重要性を説き、全国の出土建築部材を集成する必要があると語った。また修理工事で取り替えられて小屋裏などに保管される古材、修理記録もまた貴重な資料とし、収集整理と公開を進めていく必要性を訴えた。
 また解体修理が減っていく中で修理を通じて培った経験や知識の継承、自明のこととされた技術、技能の内容の記録化も必要と述べた。ほかに自然科学・応用科学との連携、発掘遺跡の復原的研究、諸外国との比較研究を課題に挙げた。
 一方、研究発表では、昭和五十五年から年輪年代法の研究を続けてきた光谷拓実・同研究所埋蔵文化財センター古環境研究室長が「年輪年代学からみた新たな課題」と題して発表。
 年輪年代法は建物に使われている部材の年輪から、正確な年代を導き出す方法で、日本では欧米に遅れて研究が始められた。光谷さんは法隆寺五重塔心柱と鳥取県の国宝三仏寺奥院投入堂の結果を事例に年輪年代法の応用が古代建築の解明に有効であることを紹介し、「日本ではまだ年輪年代法への関心が低い。解体修理は年輪年代法」を応用する最大のチャンス。各地の修理現場からの情報を提供してほしい」と訴えた。
 ほかに「古代建築の力学的性状と構造診断」「出土瓦による屋根景観の復原」などの研究報告があった。

平成14年(西暦2002年)11月10日(日)奈良新聞掲載